スコット・ウォーカー 30世紀の男 DVD
これほどまでにイギリスのミュージシャンたちに愛されるスコット・ウォーカーとは果たして何者なのか? 驚くのはスコット・ウォーカーを敬愛するミュージシャンの豪華さだ。本作の製作総指揮を務めるのはデヴィッド・ボウイ。「ロクシー・ミュージックもトーキング・ヘッズも彼のアルバムから一歩も進化していないなんて、情けなくなる」と語るブライアン・イーノ。「『クリープ』はスコット的な曲で、常に彼の音楽が原点だ」と話すレディオヘッドの面々。「アメリカ出身でありながら、イギリス人の生活や音楽、意識のずれに共感している」と指摘するブラーのデーモン・アルバーン。「イギリスの殺風景な景色にぴったりだ。ゴシック風で美しい憂鬱を称えている」とジョニー・マーは、「スミスのアルバムで取り上げたかった」とも。他にもパルプのジャーヴィス・コッカーやスティングらがこぞって彼の魅力について熱く語る。
一体、何がそれほどまでに魅了するのか。甘く柔らかい歌声、風景が浮かぶわかりやすい歌詞、ラスベガスでなくパリのようなポップでありながらかけ離れたところを目指している。この人はどこか違うと気がついた瞬間に彼の熱狂的な虜になってしまう。スコットの歌は例えていうなら、短編小説や絵画のようなのだ。耳に入りやすい厳選された言葉が、語りかけるように発せられる低音とともに体中に染み渡る。
かつてイギリスで、ポップアイドルとして人気を誇ったウォーカー・ブラザーズ。その中でも端正なルックスと甘い歌声で注目を集めたのがボーカルのスコット・ウォーカーだ。人気絶頂期に解散し、ソロとして活動を始めたスコットは、徐々に歌手としてよりミュージシャンとして自作の曲を増やし、そのアルバムは音楽のメインストリームからは離れてゆく。
表舞台から姿を消した彼は、一部批評家や同業ミュージシャンからは熱狂的な支持を集めたが、アルバム発表の間隔は10年ほどに開き、いつしか伝説のミュージシャンと呼ばれるようになる。
ハイライトは彼の前衛的な作風の集大成として話題を呼んだ2006年発表のアルバム『ザ・ドリフト』の制作風景だ。大きな豚肉の塊をマイクの前に置き、拳で何度も殴りつけるパーカッショニストの姿が実に異様。実験的な手法や歌で何歩も先を行く孤高のカルトヒーロー、スコット・ウォーカーの知られざる素顔に初めて迫った貴重な映画だ。
text by 小池_弘
監督:スティーヴン・キジャク
出演:スコット・ウォーカー、デイヴィッド・ボウイ、ブライアン・イーノ、スティング、デーモン・アルバーン、ジャーヴィス・コッカー、レディオヘッド他
字幕監修:今野雄二