8 1/2 ポスター
「作ろうと思った映画がどんなものか分からなくなってしまった映画監督」が、温泉地で療養するものの、一向に作品のアイディアは閃かず、不安に苛まれながら混沌とした精神状態に陥っていく——。
映像の魔術師と呼ばれるフェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』は、自分自身をモデルにした作品と言われている。「作ろうと思った映画がどんなものか分からなくなってしまった」とは、実際にこの『8 1/2』の撮影が始まったときのフェリーニ自身の精神状態だったというから驚く。その状態からアカデミー外国語賞を受賞するまでの作品にしているのだから、やはりフェリーニは魔術師なのだろう。
そんな『8 1/2』は、2008年に【完全修復ニュープリント版】として上映されている。実に25年ぶりのスクリーン復活だったそうだ。これは、その時のポスターである。
主人公役のマルチェロ・マストロヤンニが頬杖をついた仕草で写っている。これは劇中カットを使用したものだと思うが、はっきり言ってずるいくらいかわいい。マストロヤンニという美男俳優が体現しているのはフェリーニなのだから、まんまとこのイタリア人監督にしてやられている気もする。
フェリーニにはこんな言葉がある。「映画の真実? 映画は嘘つきのほうがいい。嘘はいつだって真実より面白い」。そうやってフェリーニは映画に人を誘い込むのだろう。スランプに陥る役ながら、マストロヤンニを決してシリアスに陥らせず、飄々とした愛らしさを持つ主人公に仕上げたフェリーニの手腕。ポスターからにじみ出るかわいさもまたフェリーニの魔術によるものだ。
text by 草刈朋子