イントゥ・ザ・ワイルド B2 ポスター
生き方を模索するすべてのひとに捧げたいポスター ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』は、アラスカの荒野で亡くなったクリス・マッカンドレスという青年の実話をもとに作られた。
死体が発見されたのは1992年の夏で、そのニュースは遠く海を隔てた日本にも届いたと記憶している。
クリスはアメリカの裕福な家庭に育ち、優秀な成績で大学を卒業した後、2年間の放浪の末、アラスカの大自然の中で餓死死体として見つかった。なぜ青年は家族も金もすべてを捨てて荒野をめざしたのか。そこが映画のテーマとして描かれていく。
では、クリスが憧れたアラスカとは、アメリカ人にとってどのような場所なのだろうか。
アラスカはアメリカ合衆国49番目の州で日本から一番近いアメリカでもある。石油などの地下資源が豊富なため、アメリカの貯蔵タンクのようなイメージがあるが、一方で開拓精神を誇りに思うアメリカ人から、アラスカは「ラスト・フロンティア」と憧れの念をもって呼ばれている。観光地として、日本人には寒い冬の時期のオーロラツアーが好評だが、アメリカ人にとっては夏のバカンスの滞在地として人気がある。圧倒的な自然体験がアメリカ人の魂を魅了するのだ。
そんなアラスカの自然に魅せられた写真家の故・星野道夫は26歳でアラスカに渡り、そこで子どもを設け、18年間暮らした。あるときある島で、かつてそこに住んでいた少数民族の住居跡を見つけたという。「人間が消え去り、自然が少しずつ、そして確実にその場所を取り戻してゆく。悲しいというのではない。ただ、〈ああ、そうなのか〉という、ひれ伏すような感慨があった」と本に書いている。
自然の力は脅威だが、その力を前にしたときに何か霊的な意味深さを感じるのが人間なのかもしれない。それこそアラスカという土地は20世紀になるまでの一万年間以上、日本人と同じモンゴロイド系の先住民族によるシャーマニズムやアミニズム信仰が続き、人々は自然の中に神を見るような暮らしをしていたのだ。それは今でも一部の民族の中で伝承されているという。クリスがアラスカに執着したのは圧倒的な自然を前にして、そのような根源的な野生感覚のありかを自分の中に求めようとしたからではないだろうか。コットンのような無光沢の用紙にふんわり印刷されたポスター。映画を見た人なら、このポスターを見ただけで、パール・ジャムのエディ・ヴェダーによるアコースティックの名サントラが頭のなかで鳴り止まないのでは?
text by 草刈朋子
ポスターの絵柄は、アラスカの雪をかぶった美しい山々と、文明の象徴のようなバスと、バスの屋根で風景を眺める主人公が印刷されている。見ていると旅に誘われるようであり、生きるってどういうことなのか、ふと考えてしまう。生き方を模索するすべてのひとにこのポスターを。