アレックス・コックス 書籍

映画界随一のアナーキスト、鬼才アレックス・コックス監督を知るための最適な評伝。 e/mブックスは、エスクァイアマガジンジャパン発行の書籍シリーズで、ヴィム・ヴェンダースに始まり、ゴダール、ウッディ・アレン、ジャック・タチ、サム・ペキンパーなどといった海外映画作家とその仕事を紹介してきた。2002年に発行されたVol.11ではインディペンデント映画界の鬼才、アレックス・コックスを取り上げている。

新進ジャーナリスト、スティーブン・ポール・デイヴィーズがコックスへのロングインタビューをもとに書き上げたこの本の原題は、「アレックス・コックス フィルムアナーキスト」という。『レポマン』(84年)や『シド・アンド・ナンシー』(86年)といったカルト的人気の根強い作品の一方で、『ウォーカー』(87年)のようなハリウッド作品も手がけてきたアレックス・コックス。

ピストルズのジョン・ライドンは、彼のことを「パンクを見誤ったオックスフォード出のお坊ちゃん」と揶揄したが、本書を読むとコックスのパンク度はライドンのそれと同等レベルではないかと思えてくる。なんせ映画『ウォーカー』でハリウッドに巨額の資本を捻出させながら、アメリカのグローバリズムを批判するという最高にパンクな仕事をやってのけてしまったのだ。コックスこそ映画界のジョン・ライドンだ。そのことでハリウッドから追放されても、独自のやり方を変えずに質のよい映画を追求する姿勢が人を魅了するのだ。

名優デニス・ホッパーは、コックス初めての評伝に序文を捧げた。そこには、こんなエピソードが紹介されている。あるとき、ホッパーは自分が共和党員であることを彼に話した。なかなか信じないので党員証を見せたところ、彼はそれをまっぷたつに破り「あんたは労働者階級の英雄のはずじゃないか!」と怒鳴ったというのである。その話に象徴されるように、この本には彼がいかに権力に巻き込まれないかということに気をはらい、そして従来の慣習にない方法で映画を作り続けていることが伺える。

著者のデイヴィーズはそんなコックスの生き方を「瀬戸際の人生」と言い表している。もちろん長い物に巻かれないという意味だと思うが、たとえ現実に瀬戸際に立たされるような状況に陥ったとしてもコックスという人は機転をきかせて器用に乗り越えていくのだろう。それはこんなエピソードにも裏付けされている。

『シド・アンド・ナンシー』で大成功を収めたコックスは、プロデューサーのエリック・フェルナーとともに、映画に楽曲提供をしたジョー・ストラマーやポーグスらアーティストを集めてニカラグアの国民解放戦線への支援コンサートを開いた。それが大盛況だったため、今度はニカラグア・ライブツアーを企画する。しかしミュージシャンにスケジュールを1ヶ月あけてもらっている状態で、資金調達がうまくいかないことが判明。そこで出た解決策が代わりに映画を作ろうというもの。コックスが3日で書き上げた脚本が『ストレイト・トゥ・ヘル』だ。さらに、撮影期間たった1ヶ月というスピード仕事に関わらず、マドリード映画祭では批評家賞を受賞するのである。

さて、この本の巻末にはアレックス・コックスの大変詳細な作品リストが収録されている。眺めていると、作品の製作国が多岐にわたることがわかる。イギリス、アメリカ、スペイン、ニカラグア、メキシコといったようにワールドワイドである。永瀬正敏主演の『私立探偵 濱マイク』シリーズの第11話なんてのも手がけており、日本とも縁が深い。

デイヴィーズは本書を「旅暮らし」という章で結んでいるが、なるほど、確かにアレックス・コックスは旅人だ。どこにも属さずに山の尾根を渡り歩くように世界中を旅しながら映画を作り続けている。

かつてパンク・ロックがそうだったように、映画業界のマンネリズムへの薬は、いつかコックスのようなアナーキストからもたらされると信じたい。

Text by 草刈朋子




アレックスコックス EMブックス〈11〉
デイヴィーズ,スティーヴン・ポール【著】 鈴木玲子【訳】
エスクァイアマガジンジャパン(2002/10/30出版)

詳細:

第1部 アレックス・コックス:フィルム・アナーキスト(リヴァプールからロスアンジェルスへ;悪いことしに行こうぜ!;ジャンキーを信用しちゃいけない;シドのあとの人生;逃避 ほか)
第2部 アレックス・コックス関連作品解説(『レポマン』;『シドアンドナンシー』;『ウォーカー』;『ストレート・トゥ・ヘル』;『PNDCエル・パトレイロ』 ほか)

著者紹介:

デイヴィーズ,スティーヴン・ポール
ロンドンのゴールドスミス・カレッジ卒業後、史上最年少のニュース・キャスターとして2年間ヴァージン・ラジオで活躍した

鈴木玲子
静岡県御殿場市出身。青山学院大学卒業。英会話教師や出版編集アシスタントなどを経て映画配給会社に入社。1992年から来日アーティストの通訳や雑誌・書籍の翻訳家として活躍中

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