カルテット ポスター
フランスの大女優イザベル・アジャーニのほとばしる演技を油絵に封じ込めたようなポスター カルテット』は『眺めのいい部屋』(86年)や『モーリス』(87年)などで知られる映画監督、ジェームズ・アイヴォリーの1981年の作品。アメリカ・カルフォルニア出身ながら誰よりもヨーロッパをヨーロッパらしく撮れると定評のあるアイヴォリーが、フランス映画界の秘宝、イザベル・アジャーニを主演に据えて挑んだ意欲作だ。
アイヴォリーの作風といえば、後年の『眺めのいい部屋』で確立されたように、“近代文学の名作を緻密な脚本と美しい映像、絶妙なキャスティングで再現したメロドラマ”だ。『カルテット』でも、すでにその持ち味は発揮されている。異色の女性作家ジーン・リースの自叙伝的小説を脚本化し、妻子ある男との禁断の愛に翻弄される主人公役に清純派のイメージの強いアジャーニを起用したのである。
一方、当時のアジャーニは映画女優としてのキャリアをフランソワ・トリュフォー監督の『アデルの恋の物語』でスタートさせ、ヴェルナー・ヘルツォークといった個性派監督の作品にも精力的に出演していた。1981年には『カルテット』のほか、ポーランド人監督アンジェイ・スブラウスキーの官能的なサスペンスホラー『ポゼッション』に出演。夫の浮気を原因に何かに憑かれたように狂っていく妻の役を体当たりで演じた。このときのアジャーニの演技は凄まじく、地下鉄の構内を転げ回り、嘔吐・失禁する姿はファンの間では伝説となっている。そんな両作品の演技が評価を受けて、アジャーニはついにカンヌ国際映画祭女優賞を受賞するのである。
『カルテット』は、日本では『眺めのいい部屋』と『モーリス』のヒットを受けて、遅ればせながら1988年に公開された。ポスターはアジャーニの劇中シーンを描いたものだ。印象派の巨匠、ルノワールの油絵のようなやさしげなタッチから受ける印象とは裏腹に、実は夜中に忍び込んできた男に体をゆるす直前というきわどいシーンを描いたものである。ベッドから半身起きあがりぎらりと睨みつけるような目が印象的だ。清純派から演技派女優への本格的な脱皮を示唆するようなポスターでもある。
Text by 草刈朋子 サイズ:515×730
紙質:上質紙
ウェイト:約110k