ポリス インサイド・アウト ポストカード
世の中にロックバンドのドキュメンタリーは数多くあれど、メンバー自身が撮影し、監督を務めた作品はあまりないかもしれない。
映画『インサイド・アウト』は、イギリスのロックバンド、ポリスのドラマーであるスチュアート・コープランドが撮りためていた8ミリフィルムの映像を、彼自らが編集したドキュメンタリー作品だ。
バンドが軌道にのりはじめた1978年から、バンド解散前の1983年まで、スチュアートは、スティングから「カメラ男」と揶揄されるほど、ツアーの移動中やドサ回りのサイン会、レコーディング風景、PV撮影の現場、そしてステージの上などありとあらゆる場面で、愛用の8ミリカメラ「スーパー8」を回し、記録している。
その映像は、ブロンドのショートヘアをトレードマークにイギリスを飛び出し、アメリカという舞台を経て短期間でスターダムにのしあがったポリスの成功ヒストリーそのものだが、ロックが本格的にショービジネス化していく様子を見ているようでもある。
本作を見ていて気づくのは、ポリスにはそれまでのロックがもっていた「セックス、ドラッグ、ロックンロール」に象徴されるいかがわしい印象が皆無なこと。楽屋や移動中にメンバー同士がふざけ合う様子は写っているが、メンバーはあくまでも品行方正さを保っており、とてもクリーンでアイドルのような印象すら受ける。かたや、同年代のマンチェスターにおいては、あれだけドラッグの嵐が吹き荒れていたというのに、この差は一体何だろう。
スチュアート曰く、ポリスは「計画的にはじまったバンド」であるという。ジャズ畑出身のスティング、元アニマルズのアンディ、元カーヴド・エアのスチュアートと、キャリアをつんできた3人からなるポリスは、技巧もアイディアも備え、バンド結成当時からメインストリームを見据えていたのだ。
1978年のファーストアルバムから、レゲエのエッセンスをロックとミックスさせ「ロクサーヌ」や「メッセージ・イン・ア・ボトル」などヒット曲を次々と飛ばした。曲はメッセージ色が強く、自殺をテーマにした「キャント・スタンド・ルージング・ユー」のように、BBCで放送禁止とされた曲もあった。そのように、ポリスは話題性を兼ね備え、メンバーそれぞれのルックスもよく、売れる条件の揃った才色兼備のバンドだったのだ。
このポストカードの写真は、そんなポリスの全盛期である1980年のアルバム『ゼニヤッタ・モンダッタ』のジャケットに使われた写真のアザーカットだ。ぱりっとした襟付きシャツを着て、やはりどこまでもクリーンでかっこいい。そして「カメラ男」スチュアートの右手の先には、見切れてはいるが、やはりスーパー8が握られているのだ。
Text by 草刈朋子