森山大道「サンパウロ、路上にて」 DVD
伝説の写真家、森山大道の生身の姿、言動、振る舞い、そのすべてをこのDVDで目撃せよ! 森山大道には写真家にありがちな強烈なキャラクターはない。むしろ控えめといってもいい。このDVDには全編を通してインタビュアーなどの声は一切なく、森山の生の声と姿だけしか収録されていない。そのため、まるで森山と二人で撮影旅行をしているような感覚が味わえるのだ。
「初めて訪れるサンパウロに自分がどう反応するか興味があった」と語るように、森山は常に冷静で客観的だ。人口約1100万人、南半球最大の都市サンパウロに初めて降り立った森山はパレード、市場、港町を歩いて、歩いて歩く。なだれてくる群集の間をするするとすり抜けてシャッターを押す。タバコを吸い視点を探し、反応するとセンサーがあちこちに彼を連れて行く。雑多な日常、圧倒的な人の多さを体感し、ヒートアップしていく。表情ひとつ変えず、口を真一文字に結んでカメラを構える森山。孤高の写真家の姿を追うカメラはどこまでも冷静だ。
後半は暗室でのプリント作業。ここは森山曰く、“もうひとつの街”。印画紙に浮かびあがる風景の美しさに思わず息を呑む。光と影のモノクロームの世界。
「モノクロの写真そのものが僕にとってはセクシーだ」と語る森山。焼きあがった写真は映像よりも光と影がより強調され、サンパウロの街がくっきりと浮かぶ。今回の旅に使ったフィルムは100本、そのうちプリントしたのが200カット、そこから展覧会のために60点がセレクトされた。
「外の世界はこんなにもすごいのに、どうしていつもこれだけしか撮れないかと思う」
これが70歳を迎える写真家の台詞なのだ。どうしようもなく、かっこいい。
text by 小池_弘
森山大道プロフィール
1938年大阪府生まれ。高校在学中から商業デザイン会社に勤め、後にフリ−の商業デザイナ−として独立。1960年、22歳の時に写真家・岩宮武二のス タジオに入り、翌61年に上京。細江英公の助手となる。また、この頃寺山修司とも出会っている。以後「カメラ毎日」や「アサヒグラフ」「アサヒカメラ」な どで活躍。写真集、個展と活動を続けていく。自ら展覧会の企画やワークショップの設立に携わったり写真誌を創刊するなど、日本の現代写真の歴史に大きく影 響を与えた人物。代表作に『日本劇場写真帖』(1968)、『狩人』、『写真よさようなら』(1972)、『光と影』(1982) 『サン・ルゥへの手 紙』(1990)、 『Daido hysteric』シリーズ(1993〜97)、『新宿』(2002)、『BUENOS AIRES』(2005)、『ハワイ』(2007)など。
監督:渡辺聡
出演:森山大道、他