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ポリス インサイド・アウト パンフレット
¥700
SOLD OUT
世の中にロックバンドのドキュメンタリーは数多くあれど、メンバー自身が撮影し、監督を務めた作品はあまりないかもしれない。 映画『インサイド・アウト』は、イギリスのロックバンド、ポリスのドラマーであるスチュアート・コープランドが撮りためていた8ミリフィルムの映像を、彼自らが編集したドキュメンタリー作品だ。 バンドが軌道にのりはじめた1978年から、バンド解散前の1983年まで、スチュアートは、スティングから「カメラ男」と揶揄されるほど、ツアーの移動中やドサ回りのサイン会、レコーディング風景、PV撮影の現場、そしてステージの上などありとあらゆる場面で、愛用の8ミリカメラ「スーパー8」を回し、記録している。 その映像は、ブロンドのショートヘアをトレードマークにイギリスを飛び出し、アメリカという舞台を経て短期間でスターダムにのしあがったポリスの成功ヒストリーそのものだが、ロックが本格的にショービジネス化していく様子を見ているようでもある。 スチュアートはパンフレットのなかでこのように語る。 「このあまりにも普通じゃない展開は、むしろレンズを通してみていた方が、現実感が持てるほどだった」 パンフレットには、これまであまり知られてこなかったスチュアートの映画音楽家としてのバイオグラフィーが掲載されている。実は、すでに1983年にはフランシス・F・コッポラ監督の『ランブル・フィッシュ』の音楽でゴールデン・グローブ賞の最優秀楽曲賞をするなど、スチュアートはサウンドメーカーとしての才能を発揮しているのだ。 スチュアートは本作をアップルコンピューターのファイナルカットプロを駆使して編集。映画業界との近しさもあり、2006年のサンダンス映画祭に出展したことをきっかけに、一般に公開された。 パンフレットには音楽評論家の大滝俊一と映画評論家の北大路隆史らが寄稿。デザインは、雑誌や書籍、CDも多く手がけるatmosphereの川村哲司。ボール紙のような表紙にくるまれ、黄色と黒を印象的に使っている。黄色は彼らの髪の毛の色、ブロンドからきているに違いない。本パンフレットは、ブロンドライフを送っていた頃の彼らのアッパーな日々を読むには最適の入門書である。
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コントロール パンフレット
¥713
SOLD OUT
イギリス、マンチェスターのバンドで、ニュー・オーダーの前身としても知られるジョイ・ディヴィジョン。映画『コントロール』は、そのジョイ・ディヴィジョンの作詞&ボーカルで、23歳で命を絶った天才イアン・カーティスの短すぎる半生に迫った作品だ。これはその劇場販売用パンフレットである。 奇しくもデザインは、マンチェスター・ムーヴメントの栄枯盛衰を描いた『24アワー・パーティー・ピープル』の映画宣伝デザインも手がけたCipher.(サイファ。)。モノクロとピンクの使い方が絶妙なうえ、本文用紙を2種類使用したという細やかなこだわりが光る一品である。実際に手に取ってページをめくると、薄い紙と厚い紙が交互にくる。厚めのマットコート紙を使用したページには写真がゆったり配置され、薄い用紙を使用したページには文字情報がレイアウトされたわかりやすいデザイン。写真集のような雰囲気も持ち合わせている。 さて、このパンフレット、内容としてとく素晴らしかったのはプロダクションノートである。イアンの妻のデボラ・カーティスが書いた『タッチング・フロム・ア・ディスタンス』の映画化権の獲得、最初は「断った」というアントン・コービン監督が引き受けるまでの経緯、イアン・カーティス役のオーディションの話などなど。さらに、原作があるとはいえ、脚本化にあたって実在する人々の証言や確約をとっていく際に、かつてのメンバーはイアンの死から立ち直るためなのか、マンチェスター・ムーヴメントをくぐり抜けてきたためなのか、大量のドラッグ摂取で当時の記憶があいまいだし、愛人のアニーク・オノレに実名使用の許可をもらうまでも長い時間がかかったなど……と、その死が周囲の人々にまだ生々しい傷を残しているがゆえに、映画完成までになんと10年間(!)もかかったというその歩みをリアルに感じることができる。 そのほかにも、劇中で使われた「ATMOSPHERE」や「SHIE’S LOST CONTROL」などの対訳が読めるのもうれしい。また、音楽評論家の大鷹俊一と映画評論家の立田敦子が原稿を寄稿している。
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ケイブルホーグのバラード パンフレット
¥2,037
「これは本物のバラードだ、私は笑い。そして泣いた」(サム・ペキンパー) 埋もれた名作ウェスタンの希少パンフレット パンフレットの醍醐味はパラパラとページを捲りこれから始まる映画に期待を高める、もしくは観終わったあとにしみじみと余韻に浸る、このどちらか だ。自分の手の中で映画のワンシーンが蘇り、愛情たっぷりの解説や寄稿を読みながらフムフムと頷く。DVDのパッケージ解説では読み取れない深みが存分に 味わえるのが魅力だ。 誇り高い西部男の血を現代に受け継ぐ孤高の男、サム・ペキンパーの『ケーブル・ホーグのバラード』は、映画同様アメリカの広大な自然にゆったりと思いを馳せる気分になれるパンフレットだ。 監 督のサム・ペキンパーは、1961年『荒野のガンマン』でデビュー、翌年『昼下がりの決闘』、69年にはアメリカ映画史上に残る傑作『ワイルド・パンチ』 を完成させる。完全主義者のペキンパーは、出演者やプロデューサーと衝突が絶えないことでも有名で、一時はハリウッドから追放されたこともあった。そんな ペキンパーが70年に作り上げたのが、『ケーブル・ホーグのバラード』だ。銃をまともに撃てない男、ケーブル・ホーグの半生を淡々と描いたこの作品は、他 のペキンパー映画に比べ、派手さこそないが深い味わいと余韻に満ち、のちに「思い通りに完成させた唯一の映画だ」と自ら語っている。 1991年リバイバル上映時に製作されたパンフレットは、現在手に入る特別版のDVDとは異なるジャケットで、遠くを見つめるケーブル・ホーグがヒルディの肩に手を掛け、夕陽に染まる美しいイラストが表紙だ。 映画評論家の山田宏一氏による「遥かなる西部のバラード」や、映画監督黒沢清氏の「ペキンパーが思い出に変わる前に」、作家小林信彦氏が寄稿する「反英雄(アンチヒーロー)のユーモア」といった、いずれもペキンパーへ思い入れたっぷりに語る濃厚な文章は読み応え満点だ。 本 作公開当時、アメリカでは『ニューヨーク・タイムズ』が1970年度ベスト1に選出したほか、『タイムズ』、『ニューズウィーク』、『ライフ』などマスコ ミ各誌からは絶賛されながらも、興行的には振るわず、日本でも公開されたが早々に打ち切られた逸話があり、ファンの間では忘れられた名作となっている。 パンフレットを買ってから、DVDを買うのもよし。DVDを買ってから、パンフレットを買うのもよし。どちらにせよバーボン片手にページを捲れば、心地よくなるに違いない。 砂漠の流れ者/ケーブル・ホーグのバラード 原題:The Ballad of Cable Hogue 製作国:アメリカ 製作年:1970年 公開年月日:1970/10/24 製作会社:フィル・フェルドマン・プロ作品 配給:ワーナー カラー/スタンダード 監督:サム・ペキンパー 製作総指揮:フィル・フェルドマン 製作:サム・ペキンパー アソシエイト・プロデューサー:ウィリアム・ファラーラ 脚本:ジョン・クロフォード、エドモンド・ペニー 撮影:ルシアン・バラード 美術:リロイ・コールマン 音楽:ジェリー・ゴールドスミス 編集:フランク・サンティロ 出演 ジェイソン・ロバーズ(Cable_Hogue)、ステラ・スティーヴンス(Hildy)、デイヴィッド・ワーナー(Joshua)、ストロザー・マーティン(Bowen)、スリム・ピケンズ(Ben)、L・Q・ジョーンズ(Taggart) H257 / W182 16P表紙カラー / 本文モノクロ 中厚マットコート紙 / 約135k 1991年発行 デザイン:矢次事務所 CONDITION: DEAD STOCK
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エドウッド コレクション パンフレット
¥2,546
SOLD OUT
映画史上最低の映画監督エド・ウッドの3作品。日本初公開時のパンフレット アメリカ“映画史上最低”の監督と言われる“エド・ウッド”ことエドワード・D・ウッド・Jr.。その存在を世界中に知らしめたのは1994年にティム・ バートンが監督しジョニー・デップが主演した『エド・ウッド』だが、“映画史上最低”というインパクトのある称号は、その6年前に出版された『ザ・ゴール デン・ターキー・アワーズ』という本に由来する。 ハリーとマイケルというメドベッド兄弟によって書かれたこの本はアカデミー賞をパロディ にしたスタイルで、さまざまな“最低”ジャンルのアワードを設定し、映画をワーストという視点から紹介していくというもの。そこで、ウッドは“最低映画監 督賞”を受賞。さらに彼の代表作『プラン9・フロム・アウタースペース』が読者投票による“映画史上最低の映画”でグランプリを受賞するのだ。 残念ながら当の本人は1978年に他界していたが、こうしてアメリカでのウッドの再評価は始まる。究極の最低ぶりは逆に人々の興味をひき、もともとエド・ウッドのファンだったというティム・バートンの映画へと発展していくのだ。 そ んなウッドの“史上最低”の作品群は、日本では映画『エド・ウッド』の公開を控えた1995年8月に渋谷ユーロスペースで公開された。「エド・ウッド コレクション」と銘打たれたラインナップは、『プラン9・フロム・アウタースペース』『グレンとグレンダ』『怪物の花嫁』の3本。そのとき会場で販売され ていたのがこのパンフレットだ。 少しざらっとした紙に絵本作家スズキコージによる『プラン9・フロム・アウタースペース』へのオマージュ のようなB級テイストを盛り込んだイラストが描かれていてかわいい。めくると白黒(ウッドの映画が白黒なので)の場面写真が豊富で、かつさまざまな制作秘 話が書かれている。 たとえば、『プラン9・フロム・アウタースペース』では主演のベラ・ルゴシが撮影開始後2週間で亡くなったため生前の フィルムをつなぎ合わせ、あとは代役の顔を見せないようにすることで乗り切ったという驚愕のエピソードや、『グレンとグレンダ』では性同一障害をテーマに したはずなのに、女装趣味を持つウッド自らの半自叙伝化してしまったなど。「映画史上最低」の製作秘話は、ティム・バートンが映画にしたくなるだけあっ て、とても面白い。なるほど「史上最低」とは最高のネタでもあるわけだ。 サイズ:A4(210×298) ページ数:8P 色数:表紙カラー、本文モノクロ 紙質:微塗工紙系統 ウェイト:約90k CONDITION: DEAD STOCK
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エリザとエリック パンフレット
¥1,528
フレンチポップ・フレーバーに隠されたヴィルジニー・テヴネの毒をパンフレットで読もう。 フランスの女優であり『ガーターベルトの夜』の監督としても知られるヴィルジニー・テヴネは、本作をジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』へのオマージュとして制作した。テーマはズバリ「両性具有と思春期」だという。 双 子のようにそっくりな姉弟のエリザとエリック。母親を亡くし、二人きりで暮らしている彼らは、行動や会話、考え方、そしてオナニーのタイミングまで一緒。 一卵性双生児のように、呼応し合い、互いに充足し合っている。性別もはっきりしない。男性的であり、かたや女性的。水面に映った自らを愛してしまったギリ シャ神話のナルキッソスのように自己愛的でもある。そんな二人の親密な世界が崩壊していくまでが描かれる。 「両性具有と思春期」という テーマは、役者を選ぶテーマでもある。ジャン・コクトーの文学作品が表わすように、両性具有的な世界はヨーロッパの文学や芸術において退廃的な美とともに 語られてきた。日本でも、萩尾望都や竹宮恵子を原点とする耽美的な漫画に通じる世界観が確立しており、「線の細い透明感のある美男美女じゃなきゃ絶対ヤ ダ」と叫ぶ女子(男子も?)はさぞや多かろう。 そういう意味でも、嵐の松本潤によく似たこの美しい双子のような二人をハントしてきたヴィ ルジニー・テヴネはエラい。さらにエラいのは、求められるものがわかっているスタイリストのように、おしゃれなテイストに仕上げてくれている点である。カ メラという小道具を役者に持たせてくれたおかげで、かつてマガジンハウスから出版されていた雑誌『オリーブ』を見るがごとく、フレンチポップのフレーバー 越しに本作の毒を楽しむことができるのだ。 ヴィルジニー・テヴネはパンフレットのインタビューで、「私の興味を引くものは、思春期の、い わゆる“モラトリアム”の状態です。18歳から30歳??あるいはもう少し上??までの年代で、大人になることを、何かを選択することを拒否する人々…。 エリザとエリックは猶予の状態にあるのです。自己の発見、自らの性を知ること、性の目覚め、成熟、そういったものすべての猶予状態にあるのです」と語って いる。 二人のモラトリアムは、意外な結末をともなって終焉するわけだが、未だにモラトリアムが続いている自分にとっては「締切」を見せられたような映画であった。気になる者は各自DVDをレンタルし、このパンフレットとともに確かめるべし。 サイズ:A4(210×298) ページ数:20P 色数:カラー、モノクロ 紙質:マットコート紙系統 ウェイト:約70k CONDITION: DEAD STOCK
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フリークス パンフレット
¥2,546
SOLD OUT
映画史上もっともスキャンダラスな作品、トッド・ブラウニングの『フリークス』の衝撃と真実 「ここにいるのはまさに生身の怪物たち。そのすがたに笑い、身震いするでしょうが、一つ間違えば皆様もこうなるところでした」 仰々しい見世物小屋の呼び込みの口上ではじまるトッド・ブラウニングの『フリークス』。 大 恐慌のさなか、全米の見世物小屋やサーカスの花形スターを集めて撮られたこの映画は、カルト・ムービーの原点と言われ、1932年の公開時には「その衝撃 的な内容に全米各州で即刻上映禁止。当時のNYタイムズは〈これは人間に見せるべき映画ではない〉と断じ世界中に一大センセーションを巻き起こした」そう だ。 何が衝撃だったのか? それは本作が、フリークと呼ばれているひとたち——ミゼット(小人)や結合双生児、下半身のない“半分人間”、半男半女、髭女など——側から撮られた映画だからである。 本 作は、ミゼットのハンスとブランコ乗りの美女、クレオパトラの偽装殺人計画を軸とし、サーカスで働く人々の人間模様を描いている。話の筋としては、ハンス を暗殺し、遺産を自分のものにしようとするクレオパトラが、逆に異形のものたちから阻まれ報復を受けるという、教訓めいた勧善懲悪話なのだが、善として描 かれるのはフリークであり、欲に駆られた美女は悪として刑罰の対象となるのだ。 トッド・ブラウニングは、本作でとてもフリークをノーマル に描いている。手足のない胴体男は口だけで悠然と葉巻に火をつけてくゆらし、まったくハンディキャップを感じさせないし、結合双生児の姉妹はそれぞれ別の 男と自由に恋愛をしている。髭女に赤ん坊が生まれるとみんなで祝い、ハンスが殺されそうになると、結束して仕返しをする。見世物小屋の日常を通して、ベー ルに隠されてきた彼らの人間性に触れる思いがする。見世物とは、フリークの生活手段であり、少なくともこの映画が作られた20世紀の前半頃までは、そのよ うな人々は世界各地のカーニヴァルや縁日のような場所で巡業をしていたことがわかるのである。 本作のデジタルリマスター版上映時のパンフ レットによると、監督のトッド・ブラウニングは映画を撮り始めるようになる前はサーカスで働いていた経験を持つという。解説にはこのように書かれている。 「撮影は困難をきわめた。集められたフリークたちは、みな自前の小屋を持つ、一座の花形ばかりである。そのプライドとエゴの張り合いにはすさまじいものが あったという。スタッフ、キャスト全員が辟易する中で、ブラウニング一人はくつろいでいた。まるで故郷に帰ったかのように、ごく自然にフリークに混ざって 楽しんでいたという」 アメリカの批評家、レスリー・フィードラーが映画『フリークス』のオマージュとして書き上げた『フリークス?秘めら れた自己の神話とイメージ』(青土社)には、公開当時この映画が道徳的なことを尊ぶPTAや諸団体、出演した何人かからも抗議を受けたと書かれている。科 学技術の発展が人々に全能感漂う未来をもたらそうとしていた時代にあっては、多くの人々の見たくない現実がそこに写されていたのだろう。時代が変わったこ とを悟ったブラウニングは、第二次世界大戦が勃発した1939年に撮った映画を最後に引退し、二度と映画を作ることはなかったそうだ。 同 書によると、「フリーク」とは「自然のいたずら(freak of nature)」の省略された形であるそうだ。それ以前はおもに「怪物(monster)」という、神の産物を意味するような言葉で表されたと書かれてい る。古代ヨーロッパで奇形の子どもが生まれた場合は、それが何かの前兆であるようにとらえられ、人々に恐怖や畏怖を喚起させたという。一方、ミゼットが王 侯貴族の愛玩を受けた時代もあったという。近代には見世物小屋で人々を笑わせるエンターテイナーの活路もあったが、では現代においてはどうなのだろうか。 日 本では2005年に解散した全日本女子プロレスとセットで「小人プロレス」(ミゼットプロレス)の興行が行なわれていた。大変コミカルで笑いに満ちた人気 の試合だったそうだが、テレビで放送されることはやはりほとんどなかったという。『笑撃!これが小人プロレスだ』(現代書館)の著者であるルポライターの 高部雨市は、日刊『サイゾー』のインタビューでこのように語っている。「日本のテレビの中では自主規制というんですか、そういうことをやり続けていた。 〈8時だョ!全員集合〉(TBS)でも、小人が登場する回はあったものの、投書が来たらそれで終わりです。〈どうしてああいう人を出すんだ〉〈ああいう人 を笑い者にするんじゃない〉って。小さな芸人の白木みのるさんが言っていたんですが、逆に言うと、そういう人たちこそが小人を見たくないんです。〈かわい そうだから〉っていう方便を使って、まさに〈見せかけのヒューマニズム〉ですね」 映画『フリークス』が再びスクリーン上に姿を現したの は、公開禁止から30年ほど経った1960年代のアメリカだった。フィードラーの先の著書の翻訳を手がけた評論家の伊藤俊治は本パンフレットのなかで、本 作が「カウンター・カルチャーのバイブルとしてもてはやされ、ミッドナイト・ムービーやカルト・ムービーのブームの火付け役」となったと書いている。伊藤 俊治はさらにこのように書いている。「これらの映画にくり返しあらわれる不具者や奇形者や怪物に、我々は人間の身体や精神に残された“最後の辺境”を見て いるのだろう」 今、この生活圏で「フリークス」に出会える確立は大変少ないかもしれないが、フリーク的なものはイメージとして世の中にあ ふれている。それは、コミックで描かれる過剰にデフォルメされた表現やテレビで流れる大食いをはじめとするさまざまな芸のなかに、あるいはポルノのなか に、何か直視しにくいものは細分化されているように思う。しかし、真にフリークのオーラを感じたいなら、トッド・ブラウニングの『フリークス』を見るしか ない。 フリークス/怪物団 原題:Freaks 製作国:アメリカ 製作年:1932年 製作会社:M・G・M映画 配給:MGM支社/ケイブルホーグ 監督:トッド・ブラウニング 脚色:ウィリス・ゴールドベック、レオン・ゴードン 原作:トッド・ロビン 台詞:エドガー・アレン・ウルフ、アル・ボースバーグ 撮影:メリット・B・ガースタッド 出 演:ウォーレス・フォード(Phroso)、リーラ・ハイアムス(Venus)、オルガ・バクラノヴァ(Cleppatra)、ロスコー・エイツ (Roscoe)、ヘンリー・ヴィクター(Aercules)、ハリー・アールス(Hans)、デイジー・アールス(Frieda)、ローズ・ディオン (Madame_Tetrallini)、Daisy and Violet Hilton(Siamese_Twins)、エドワード・ブロフィー(Rollo_Brothers)、マット・マク ヒュー(Rollo_Brothers) サイズ:A4(210×298) ページ数:8P 色数:表紙2色、本文モノクロ 紙質:マット紙系統 ウェイト:約70k CONDITION: DEAD STOCK
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ジョン・ウォーターズ パンフレット
¥2,546
SOLD OUT
80年代カルト映画ブームを起こしたバッド・テイスト・ムービー。コレクター涎垂の逸品 バッド・テイスト(悪趣味)の帝王、ジョン・ウォーターズ。 「ジョン・ウォーターズ=トイレの水の流れ」という名前(「ジョン」はスラングで「便所」という)からして悪い冗談のようだが、そんなジョン・ウォーターズを“バッド・テイスト”という孤高のジャンルにたらしめたのが1972年のアメリカ映画『ピンク・フラミンゴ』だ。 ボルチモアの郊外に住む二組の家族が「世界で最も下品な人間」をかけて悪趣味合戦を繰り広げるというこの映画は、体重150キロ、バスト130センチのシーメール(ニュー・ハーフ)、ディヴァインという強烈な才能を世に送り出したことでも知られている。もともとディヴァインはジョン・ウォーターズの近所に住むヘア・デザイナーで、当時高校生だったウォーターズに見初められ、1968年の『イート・ユア・メイクアップ』(日本未公開)に出演。『ピンク・フラミンゴ』で「犬の大便食い」という強烈なシーンを体当たりで演じ、映画のヒットとともにカルトスターになった。その後、『フィメール・トラブル』(74年)、『ポリエステル』(81年)、『ヘアスプレー』(87年)といったウォーターズ作品に欠かせないキャラクターとしてバッド・テイストの立役者となるのである。 そんな史上最強の悪趣味コンビ、ウォーターズ&ディヴァインの作品は日本では1986年に公開される(1980年には“アングラの帝王”佐藤重臣によって、トッド・ブラウニングの『フリークス』と『ピンク・フラミンゴ』という驚愕の2本立てが自主上映されているが)。人気の高い初期の2作品『ピンク・フラミンゴ』と『フィメール・トラブル』の豪華2本だてでケーブルホーグとメジャーの東映との共同配給で公開されている。これはそのときのパンフレットだ。 表紙に『ピンク・フラミンゴ』のディヴァイン、裏表紙にはウォーターズ・ファミリーの一員で『フィメール・トラブル』でディヴァインと五分で渡り合ったエディス・マッセイの焼豚のようなスーツ姿が配置された素敵なデザインだ。パンフレットには2作品の解説のほか、ジョン・ウォーターズの詳細な略歴とフィルモグラフィー、評論家の武邑光裕の寄稿、ディヴァインの4ページに渡るバイオグラフィーが掲載されている。 中でも目を引いたのが、最終ページのジョン・ウォーターズ4作品のVHSビデオの広告だ。レストランのメニュー風に「“カルトの神様”ジョン・ウォーターズ料理長の特製ビデオ」とふざけられた広告の中に、あの伝説のオドラマカードが見られる。オドラマカードとはジョン・ウォーターズの1980年の映画『ポリエステル』の上映時に配られた10種類のにおいのするカードで、映画の要所要所で指示にしたがってひとつずつにおいを嗅ぐことで嗅覚でも映画を体験できるとした。どのようなにおいがするかというと、おならや靴下の匂い、ガソリン、スカンクなどバカバカしいギミックに満ちたものだが、映画史上初のオドラマ・システムとしてカルトな話題をさらったのである。 サイズ:B5(182×257) ページ数:16P 色数:表紙カラー、本文モノカラー 紙質:コート紙系統 ウェイト:約70k CONDITION: DEAD STOCK そのオドラマカードはもちろんVHSにもセットされたわけで、そのような珍商品を売らざるを得なかった東映ビデオの方々のご苦労が忍ばれる広告となっている。
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ザ・ウィナー パンフレット
¥1,528
コックスの真摯なパンク魂が垣間見えるパンフレットは、パンク・ムービーを愛するすべてのキッズたちに捧げたい 『レポマン』、『シド・アンド・ナンシー』、『ストレート・トゥ・ヘル』で圧倒的な人気を誇るアレックス・コックスの1996年製作『ザ・ウィナー』のパンフレット。カルトでパンクな監督だけに、パンフレットも遊び心に溢れた造りになっている。 特殊翻訳家の柳下毅一郎が低予算B級映画の必要性を声高に宣言する「ロール・オーバー・タランティーノ」や作家・翻訳家の東理夫の「小悪党の魅力、キワだつ」、映画評論家でイラストレーターの三留まゆみによる「The Winner 摩訶不思議 超COX的人物相関図」、映画評論家、大場正明の「ここにあるのは遜色なしの、アレックス・コックス風“ラス・ヴェガス”」、またライター佐武加寿子による「頑固者監督のこだわる音=ホンモノは、やはり観客のために作られた映画」など、アレックス・コックスについて曲者たちがそれぞれ縦横無尽に語り尽くす。 とくに見逃してはならないのが、98年3月17日にロケハン中の東京で収録されたという監督からのメッセージだ。アメリカやヨーロッパで公開された『ザ・ウィナー』は、コックスの意図とは異なり、残念ながら全く別のヴァージョンで公開され、観客からブーイングの嵐を浴びたそうだ。98年の日本公開時にはコックスのオリジナル・ヴァージョンがめでたく上映され、監督自身のファンに対する感謝の気持ちが語られている。 ザ・ウィナー 原題:The Winner 製作国:アメリカ 製作年:1996年 公開年月日:1998/06/13 製作会社:ケネス・シュウェンカー・プロ 配給:ギャガ・コミュニケーションズ=ケイブルホーグ 監督:アレックス・コックス EP:マーク・デーモン、レベッカ・デ・モーネイ 製作:ケネス・シュウェンカー 脚本:ウェンディ・リズ 原作:ウェンディ・リズ「A DARKER PURPOSE」 撮影:デニス・マロニー 美術:セシリア・モンティール 編集:Carlos Puente 衣装(デザイン):ナンシー・シュタイナー 字幕:風間綾平 出演:ヴィンセント・ドノフリオ(Philip)レベッカ・デ・モーネイ(Louise)マイケル・マドセン(Wolf)デルロイ・リンド(Kingman)ビリー・ボブ・ソーントン(Jack)フランク・ウェイリー(Joey)リチャード・エドソン(Frankie)サヴェリオ・ゲーラ(Paulie) トリヴィア: アレックス・コックスは自身のオフィシャル・サイトでこう述べている。「悲しいかな、これは私の作品ではない。これはアラン・スミシー監督作品である」。では「アラン・スミシー」とは誰か? これは1968年から2000年まで、監督が不当な扱いを受けた場合に全米監督協会が使用を認めていた公式な偽名である。つまり、不本意な作品で自分の名前をクレジットされたくない場合には「アラン・スミシー」を名乗ることが許されていたわけだ。日本でも「亜乱炭椎」などの表記が使用されることがある。もっとも本作「ザ・ウィナー」はIMDBでもアレックス・コックスの名前がクレジットされているので、正式に抗議をした訳では無いようだ。 サイズ:H248/W160 ページ:24P 表紙・本文8Pカラー/本文17P 2色印刷 中厚マットコート紙/約110k 1998年発行 アートディレクション・デザイン:君島イチロー CONDITION: DEAD STOCK
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グラウベル・ホーシャ パンフレット
¥2,037
ブラジル発“シネマ・ノーヴォ”の騎手、グラウベル・ホーシャをフォローできるレアな資料! 「頭にアイディアを、手にはカメラを」 これは、1960年代のブラジルに起こった“シネマ・ノーヴォ”のスローガンだ。 当時、ブラジル映画界はハリウッドにシェアを奪われ続け、瀕死の状態にあった。そんななか、イタリアのネオリアリズムとフランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けた若者を中心に、低予算でいいから、自分たちの手による自分たちのための映画を作ろうぜ! という気運が高まったのだ。折しもカリブ海に浮かぶ島キューバではカストロ率いる革命軍が勝利。ラテンアメリカに反帝国主義のムードが満ちていたことも、この運動を後押ししたのである。そして、その中心にいたのが、グラウベル・ホーシャだ。 ジャーナリストでもあったホーシャは、ブラジルの風土や民族性に即した物語をベースに、暴力に満ちた悲惨でやるせない社会状況をフィルムに焼き付け、ジャン・リュック・ゴダールに“もっとも新しい映画監督のひとり”といわしめた映画監督だ。 『黒い神と白い悪魔』(64年)でカンヌ国際映画祭パルムドールにノミネートされ、続く『狂乱の大地』(67年)と『アントニオ・ダス・モルテス』(69年)も同映画祭に出品された。さらに『アントニオ −』では監督賞を受賞するのである。しかし、軍事政権下で映画表現に検閲が入るようになり、海外に亡命。スペインやコンゴ、パナマなどで映画を制作するも肺の感染症をこじらせ1981年に43歳の若さで亡くなるのだ。まさに革命家のような激しい人生を生きたのである。 日本ではシネマ・ノーヴォの作品群はほとんどリリースされていないが、かろうじてVHSで見ることができるのが、『黒い神と白い悪魔』『アントニオ・ダス・モルテス』だ。2作ともにカンガセイロと呼ばれる義賊と、義賊を討伐する殺し屋アントニオ・ダス・モルテスの決闘を描いていて、一見西部劇のようでもある。しかし、ブラジル東北部の強烈な風土——照りつける太陽、貧困、激しいサンバのリズム、そしてブラジルの原始宗教マクンバの邪気に満ちた儀式!——は人智を越えた神秘性を醸し出す。この悲しみをたたえた空気(サウダージとでも言うのだろうか)は、アメリカの西部劇では表現し得ないだろうし、それこそがシネマ・ノーヴォの追求した唯一無二の地平線なのだと思う。 『黒い神と白い悪魔』『アントニオ・ダス・モルテス』は日本では1985年に配給会社ケイブルホーグによって上映された。当時のパンフレットには、ハードボイルド作家の船戸与一、辛口映画評論家の田山力哉、小野耕生、評論家の平岡正明というクールかつ男気あふれる豪華な面々のホーシャ論が読める。 また、何よりもこのパンフレットに価値を与えているのは、8ページにわたるホーシャのロングインタビューだ。フルタイムの論客と言われたホーシャの発言は大変なめらか。ゴダールの難解な文章よりもはるかに読みやすい。彼の文章を日本語で読むには、古本屋を漁るか国会図書館で探すか以外では、もうこのパンフレットでしか読めないかもしれない。 アントニオ・ダス・モルテス 原題:Antonio Das Mortes 製作国:ブラジル 製作年:1969年 公開年月日:1970/10/24 製作会社:クロード・アントワーヌ・フィルム カラー/スタンダード 監督/脚本/美術:グラウベル・ホーシャ 撮影:アフォンソ・ベアート 音楽:マウオス・ノブレ 編集:エドゥアルド・エスコレル 出演:マウリシオ・ド・バーレ(Antonio das Mortes)オデッテ・ララ(Laura)オトン・バストス(Plofesseur)ウーゴ・カルバーナ(Police)ホフレ・ソアレス(Colonel)ローザ・マリア・ペンナ(Sainte) 受賞歴: 1969年度カンヌ映画祭監督賞、ルイス・ブニュエル賞受賞 黒い神と白い悪魔 英題:The Black God And The White Devil 原題:Deus e o diabo na terra do sol 製作国:ブラジル 製作年:1964年 公開年月日:1985/11/16 製作会社:コパカバーナ・フィルムス 配給:ケイブルホーグ モノクロ/スタンダード 監督/脚本:グラウベル・ホーシャ 製作:ルイース・アウグーストウ・メンデス、グラウベル・ホーシャ、ハーバス・バルボウサー 撮影:ヴァルデマール・リマ 美術:パウロ・ジル・ソアレス 音楽:ビラ・ロボス、J・S・バッハ 出演:ジェラルド・デル・レイ(マヌエロ)イオナー・マガリェイイーンス(ローサー)アントウニオウ・ピントウ(ムーライス)リーディオウ・シルヴァ(シバスティアン)マウリシオ・ド・バーレ(アントニオ)オートン・バーストゥース(コリスコウ)、他モンテ・サントの住人たち 受賞歴: 1964年度ポレッタ・テルメ自由映画祭最優秀作品賞 1966年度サンフランシスコ映画祭大賞受賞
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ヘイル・ヘイル・ロックンロール パンフレット
¥1,528
チャック・ベリーのデータブックといえるほどの豊富な写真と資料は、音楽ファンなら手元に置いておくべし 1926年生まれのチャック・ベリーは現在84歳、いまだ現役だ。ここに紹介するのはチャック・ベリーの還暦バースデー・コンサートの模様を収めた映画のパンフレットだ。 とにかく出演者が皆若い! 音楽プロデュースを務めたのは、当時43歳のキース・リチャーズ。キースのチャック・ベリー好きはあまりにも有名で終始、子どものように無邪気な笑顔でうれしそうだ。 他にもエリック・クラプトン、ロバート・クレイ、ジュリアン・レノンなどの若かりし姿も見ることができる。 またゲスト・ミュージシャンの詳細なクレジットを見ると、バックバンドには現在ジョン・メイヤーのバックでドラムを務めるスティーブ・ジョーダンやNPBQのベース、ジョーイ・スパンピナートの名前も見られる。今は亡きウィリー・ディクソン、ボ・ディドリー、ロイ・オービソンの大御所3ショットには涙。そんな楽しみ方ができるのも、パンフレットならではだ。 豊富な写真とアルバム・ディスコグラフィー、カヴァー・レコード、シングル・ヒット・データを収録した膨大な資料は、「レコード・コレクターズ」の豪華版といった造りになっている。鷲巣功氏による3ページに渡る詳細な曲目解説もうれしい。 評論家、大場正明氏の「音楽的センスあふれるハックフォードが鋭く切り込んだ素晴らしきドキュメント」やストーンズに詳しい越谷政義氏による「偉大なるチャック・ベリーの素晴らしさをスーパースターのキース・リチャードがひとりのディレクターとしてダイレクトに伝えてくれる“Hail Hail Rock and Roll”!」も併せて掲載。 ロック・ファンなら是が非でも手元に置いておきたいパンフレットだ。
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セコーカス・セブン パンフレット
¥2,037
“アメリカン・インディーズ映画の巨匠”と呼ばれるジョン・セイルズ幻のデビュー作パンフ まずは表紙を見てほしい。1980年代にしかあり得ない絶妙なコーディネイトの女性が道路に寝そべっている。出演者は監督であるジョン・セイルズの学生時代の友人や無名の俳優たち。衣装は自前、ノーメイク、移動撮影なしで撮影期間1ヶ月、製作費12万ドルで、当時のハリウッド映画の1日分の製作費だ。 『ピラニア』や『アリゲーター』、『ハウリング』などのB級ホラー映画の脚本を手がけたギャラで製作したという初監督作『セコーカス・セブン』のパンフレットには、危うい時代の匂いがプンプン感じられる。 まさに80年代を象徴するかのような青みがかった網点写真や、アメリカの典型的な若者ファッション、登場人物を紹介する英語の書体がいい味を醸し出している。裏表紙のイラストを含め、80年代に人気絶頂だった『ハートカクテル』のわたせせいぞうや『FMステーション』の鈴木英人的世界のパンフレットなのである。 舞台がカリフォルニアではなく、ニュージャージーというのもまたいい。ニュージャージーといえば、監督ジョン・セイルズのホームタウンだ。ハドソン川を渡ると、ニューヨークという好立地にありながら、どこか垢抜けない暗い工業地帯で、誰もがこのままではいけないとニューヨークへの脱出を図る反骨スピリットの街である。 ここから抜け出して一躍有名になったのはあのブルース・スプリングスティーン。ジョン・ボンジョビやポール・サイモンもニュージャージーの出身だ。3人に共通するのは欝屈としたトラウマをバネにしているところ。ジョン・セイルズにも似たような匂いが感じられるから不思議だ。 ちなみにブルース・スプリングスティーンの傑作アルバム『ボーン・イン・ザ・USA』からシングルカットされた『グローリー・デイズ』と『アイム・オン・ファイアー』のPV演出はジョン・セイルズが務め、85年のMTV最優秀男性ヴィデオ賞を獲得している。 セコーカス・セブン 原題:Return of the Secaucus 7 製作国:アメリカ 製作年:1980年 公開年月日:1986/08/01 製作会社:サルシビューデス・プロ作品 配給:ケイブルホーグ/ユーロスペース カラー/ビスタ 監督:ジョン・セイルズ 製作:ウィリアム・エイドロット、ジェフリー・ネルソン 撮影:オースティン・デ・ベッシュ 音楽:メイソン・ダーリング 字幕:古田由紀子 出演:ブルース・マクドナルド(Mike)マギー・レンジ(Katie)アダム・ル・フェブル(J._T.)マギー・クージノー・アーント(Frances)マーク・アノット(Jeff)Jean Passanante(Irene)カレン・トロット(Maura)ゴードン・クラップ(Chip)ジョン・セイルズ(Hawie)デイヴィッド・ストラザーン(Ron)エイミー・シェーウェル(Lacey)
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注目すべき人々との出会い パンフレット
¥1,528
20世紀最大の魔術師グルジエフの旅を描いた幻の映画のパンフレット。掘り出し物間違い無し! コーカサス生まれの神秘思想家、ゲオルギー・イヴァノヴィッチ・グルジエフの著書『注目すべき人々との出会い』を、イギリス人の演出家ピーター・ブルックは大変美しく真摯に描いた。 20世紀最大のオカルティストとか魔術師とも称されるグルジエフには「瞳をじっと覗き込むだけで病を治した」「遠く離れた家畜を殺すことができる」などと、どこまで本当なのかわからない様々な逸話が残されている。が、本作は彼がそのような力を獲得(覚醒)する前のお話であり、自分の存在理由を求めてアフリカや中近東、アジアの辺境を旅する若き時代に焦点を当てている。 事実、本作に登場する青年グルジエフは自分探しをするバックパッカーのようだ。生の意味に悩み古代の叡智にヒントを求め放浪を続ける。しかし、旅先には同じように真理を探究する仲間との出会いがあり、それが本作を青春映画と言ってもいいくらいの明るい雰囲気にさせているのだ。 エンディングでグルジエフはサルムング教団という古代秘密結社の僧院に辿り着く。映画はここまでであるが、その後の軌跡を簡単に紹介すると、彼はそこで数ヶ月とどまり神聖舞踏や様々な秘密を体得した。その後旅で得た様々な舞踏を組み合わせ「ムーブメンツ」と呼ばれる覚醒のための舞踏を完成させ、フランスやアメリカなどで展開する。1949年に亡くなるも、グルジエフの思想は弟子たちに引き継がれ、1960年代のアメリカのカウンターカルチャーにも影響を与えたという。 ところで、生命の秘密を舞踏で表現した思想家がもうひとり同年代にいる。クロアチア出身の哲学者ルドルフ・シュタイナーだ。彼もまた霊的な叡智からの見解を大切にし、オイリュトミーと呼ばれる舞踏を提唱した人だった。二人に接点はなかったようだが、生命の法則性の見解には似た世界観を感じる。 グルジエフやシュタイナーが生きた19世紀後半から20世紀前半とは、まさに信仰が科学にとって変わられる過渡期。私たちは今、科学で理解できないものには「オカルト」というレッテルを貼り、それ以上考えないようフタをするが、この時代にはそういったものを理解する土壌が普通にあったのだ。 映画の冒頭にはこんなシーンがある。 少年のグルジエフが将来の進路を尋ねられる。「科学にも興味がある」と答えるが、それに対して周りの大人は「医学も学びなさい。肉体と魂は一体だからね」と適切なアドバイスを与えるのだ。 ほんと、昔の人はいいことを言うよね。 注目すべき人々との出会い 原題:Meetings with Remarkable Men 製作国:イギリス 製作年:1979年 公開年月日:1982/07/10 製作会社:リマー・プロ カラー/スタンダード 監督:ピーター・ブルック 製作:スチュアート・ライオンズ 脚色:ジャンヌ・ド・ザルツマン、ピーター・ブルック 原作:G・I・グルジェフ 撮影:ギルバート・テイラー 音楽:トーマス・ド・ハルトマン、ローレンス・ローゼンタール 字幕:和田穹男 出演:ドラガン・マクシモヴィック(Gurdjieff)、テレンス・スタンプ(Prince)、ウォーレン・ミッツェル(Father)、ドナルド・サンプター(Pogossian)、Athol Fugard(Skridlov)、Tom Fleming(Giovanni)
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ヘンリー パンフレット
¥1,528
内容を思い出すだけで身も凍るジョン・マクノートンのデビュー作『ヘンリー』のリアルホラー・パンフレット 眺めているだけで身も凍るような恐ろしさがこみ上げてくる表紙は少ない。アメリカで1986年に製作されたが、あまりにリアルで生々しい内容に怖れ公開を中止し、4年後の90年までオクラに入っていたいわく付きのホラー映画だ。 300人以上の女性を殺した恐るべきサイコキラー、ヘンリー・リー・ルーカスの殺人生活を描いた、リアリスティックなホラー。監督・製作・脚本・音楽は『ボディ・チェンジャー』のジョン・マクノートンで、これがデビュー作にあたる。 パンフレットの内容は、ジョン・マクノートン、「ヘンリー」を語る、映画評論家の塩田時敏「羊たちの沈黙」を超えた「ヘンリー」、映画評論家の友成純一による「ヘンリーが描く本物の恐怖」など、この映画がいかに恐ろしいかが明確に語られる。 『13日の金曜日』のジェイソンにも『羊たちの沈黙』のレクター博士にもない本当の恐怖がこの映画にはある。あまりに淡々とした演出がまるで現実のように思え、異様な生々しさを持って迫ってくるのだ。コワいけどやっぱり気になってしまう・・・・・・そんなパンフレットに仕上がっている。
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ワイルド・パーティー パンフレット
¥3,563
プレイメイトのお色気写真とラス・メイヤーの人生訓もたっぷり拝めるモンドデザインな一冊 正方形のページものと思ったら、なんとスリーブ仕様である。EPレコードのようなデザインで、スリーブの入口にゆるやかなカーブが施され中身が取り出しやすくなっている。その中にはレコードの代わりに濃い緑色一色で刷られたライナーノーツが16枚入っている。ミニシアター系の映画のパンフレットには、映画の雰囲気を誌面の中だけでなく形やつくりに現わしたものも少なくないが、このパンフレットはそうした変形もののひとつである。 配給会社ケイブルホーグ社のカルト・クラシック・シリーズとして1999年にリバイバルした『ワイルド・パーティ』。モンドな雰囲気漂うパンフレットの表紙には、本作が1970年にアメリカで公開されたときのポスター・イメージが使われている。下から女性たちを煽るカメラアングルは、ラス・メイヤー監督独特の撮り方で、第二次世界大戦の戦場カメラマンからプレイボーイ誌のカメラマンという天と地ほどの落差のある転職キャリアを経て培われたものだ。おのずとバストが強調される構図となっているが、このアングルでふたつのこんもりとした山が表れてこない女優は、ラス・メイヤー作品にはまず登場しないと言っていいだろう。 映画へのリコメンドとして掲載されているメイヤー自身のコメントが笑える。 「わしは間違いなく女性を搾取してきた、まぎれもないすけべじじいだ。それで生計をたて、熱意と趣味を注ぎ込んできた。わしゃポルノ屋じゃ—だがワンランク上のポルノ屋なんだ」 搾取や開拓を意味するエクスプロイテーションという映画のジャンルがある。ポルノ、ロックンロール、モンド、黒人映画、など限られたジャンルに特化し、おもにドライブイン・シアターのような場所で上映されるB級映画だが、そのなかでもセクスプロイテーションと言われるソフトコアポルノのジャンルを確立したのがラス・メイヤーだ。 メイヤー作品といえば、気性の強いお色気ムンムンの女性たちが主人公のハチャメチャなコメディ&バイオレンス。脚本・監督・撮影・編集までをひとりでこなす自主制作ながら確実に収益を得ており、そのような自負が先のコメントにも表れているのだろう。 『ワイルド・パーティ』はラス・メイヤーの初メジャー作品である。 パンフレットに寄稿している映画評論家、ウェイン町山のWEB上のレビューによると、「1960年代後半、ハリウッドのすべての映画会社が、テレビと、セックス&バイオレンスを売り物にするドライブイン映画に客を盗られて経営難に陥っていた」という。本作を製作した20世紀FOXもまた超大作『クレオパトラ』(68年)で失敗し莫大な赤字を抱えていた。そんなときに低予算で確実な儲けをとれる監督として白羽の矢を当てられたのがメイヤーだった。 かくして、『ワイルド・パーティ』はセクスプロイテーション映画でありながら、メジャーのスクリーンに堂々と上映されるという快挙を成し遂げる。後にピューリッツアー賞に輝く映画評論家のロジャー・エバートを脚本に招き、雑誌『プレイボーイ』のグラビアモデルであるプレイメイトを総出演させ、セックス、ドラッグ、ロックンロール、バイオレンス、ホモセクシャル、レズビアン……ありとあらゆる娯楽要素と、極めつけに1969年にビバリーヒルズで起こったシャロン・テート事件に酷似した猟奇的ラストシーンを盛り込んだのである。 パンフレットにはラス・メイヤー自身のインタビューも掲載されている。 「愛、レイプ、殺人、セックス、ドラッグ、中絶、自殺、全てがここにある。皆、何か身に覚えがあるだろう。心を閉ざしちゃいけない。生きるってこういう事なんだから。それが『ワイルド・パーティ』さ。官能の宴が人間の心に火をつけるんだ」 さすが戦争という地獄をくぐり抜けてきた男の言う言葉は違う。実際、映画は大ヒットし、さらにそれだけでは終わらず数々の映画作家——マイク・マイヤーズ、ジョン・ウォーターズ、クエンティン・タランティーノら——に影響を与え、さまざまな作品の中にエッセンスとして昇華されたのである。 しかし、本作にはまだ後日談がある。 2003年、“Zマン”のモデルとなった音楽プロデューサーのフィル・スペクターがビバリーヒルズの豪邸でグラマラスな女優ラナ・クラークソンを射殺するという映画のエンディング同様の事件が起こるのだ。 人生とは何が起こるかわからない。 「心を閉ざしちゃいけない」というメイヤーの言葉が胸に沁みてくる。
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シド&ナンシー パンフレット
¥2,037
パンク史上最もセンセーショナルなカップルが放つ愛と死の鮮烈なイメージ。 1986年に公開(日本公開1988年)され、各地でセックス・ピストルズブームを再燃させた映画『シド・アンド・ナンシー』。これは、1997年にリバイバル上映されたときのパンフレットだ。 表紙はディープキスをするシド・ヴィシャスとその恋人のナンシー・スパンゲンの写真で、これはシドがフランク・シナトラの「マイウェイ」を歌った名シーンからのカットアップ。二人の口元にはクラッシュのジョー・ストラマーが映画のために作った曲「Love kills」の文字が配置されている。 「情熱的な愛は死の中にのみ存在する……」 監督のアレックス・コックスは『シド・アンド・ナンシー』の初公開時にこう語っている。「監督2作目にセックス・ピストルズを題材に映画を撮ろうと取材を進めるうちに、メンバーのひとり、ベーシストのシド・ヴィシャスと彼の恋人、ナンシー・スパンゲンの二人にどうしようもなく曳かれてしまった」 ニューヨークのチェルシーホテルで殺害されたナンシーの死因は、シドがその後を追うようにドラッグ中毒で亡くなってしまったため現在も謎のままだが、アレックス・コックスが撮った『シド・アンド・ナンシー』ではまさに「Love kills=愛が殺った」と思わせるストーリーが展開されていくのだ。 パンク・ロック史上最もセンセーショナルなカップルのストーリーは、さまざまな才能への求心力をもつ。シド役を演じたのは、当時新人だったゲイリー・オールドマンで、事実上彼の出世作となった。オーディションでナンシー役を勝ち取ったクロエ・ウェブは、もともと舞台を中心に活躍していたが、本作でアメリカ映画批評家協会・主演女優賞を受賞し、以降映画女優としても活躍している。また、クロエ同様ナンシー役のオーディションを受けて、素人ながら端役をつかんだのが、故カート・コバーンの妻のコートニー・ラブだ。ほとんど演技経験がなかったにも関わらず圧倒的な存在感を見せつけ、アレックス・コックスの次作『ストレイト・トゥ・ヘル』の役柄を得たという。 一方、本作に対して反発する声もある。編集者の川勝正幸はパンフレットでピストルズのボーカル、ジョン・ライドンのコメントを紹介している。「あれは誰かさんのクソ・ファンタジー。パンクを見誤ったオックスフォード出のお坊ちゃんの夢物語。あの野郎!」いかにもジョン・ライドンが言いそうなことで面白い。 パンフレットには、他にも映画評論家の大場正明、大森さわこ、写真家の蜷川実花といった蒼々たる顔ぶれが名を連ねている。実はそんななかに、当時20代前半だった私も参加させていただいている。ピストルズを知らない世代からの原稿を、ということで(大変青臭い文章を)書かせていただいたのだが、それがオフィシャルで名前を出した初めての原稿となった。あれから10年以上が経ち、多少知識や経験もついたのだろうか。改めてDVDで見直してみると当時とはまた違ったリアリティを感じられてよかった。 確信を持って言えるのは、ピストルズを知らない人でも充分に見る余地のある映画ということだ。 シド・アンド・ナンシー 原題:Sid and Nancy 製作国:イギリス 製作年:1986年 公開年月日:1988/03/18 製作会社:ゼニス・プロ カラー/ビスタ 監督:アレックス・コックス 製作:エリック・フェルナー 脚本:アレックス・コックス、アベイ・ウール 撮影:ロジャー・ディーキンス 音楽:ジョー・ストラマー、ザ・ポーグス、プレイ・フォー・レイン 編集、デイヴィッド・マーティン 字幕:松岡葉子 出演:ゲイリー・オールドマン(Sid Vicious)、クロエ・ウェブ(Nancy Spungen)、ドリュー・スコフィールド(Johnny Rotten)、トニー・ロンドン(Steve)、ペリー・ベンソン(Paul)、デイヴィッド・ヘイマン(Malcolm)、デビー・ビショップ(Phoebe)、アン・ラムトン(Linda)、キャシィ・バーク(Brenda)、スチュアート・フォックス(Rock Head)、ビフ・イェーガー(Detective)
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シャロウグレイブ パンフレット
¥1,528
『トレスポ』の監督ダニー・ボイルの記念すべき処女作。コレクション必須のパンフレット! ダニー・ボイル監督の処女作『シャロウ・グレイブ』は、日本での知名度は低いが、本国イギリスでは「タランティーノを越えた」と高く評価された作品。 ダニー・ボイルは「Shallow grave=浅い墓」と名づけた本作で、スコットランドの瀟洒なフラットに暮らす経済的にも自立した3人のヤッピーを登場人物に選んだ。ひとりはユアン・マクレガー扮する挑発的なジャーナリストのアレックス、紅一点でダイアナ妃のような雰囲気の医師のジュリエット、まじめな会計士のデビッドだ。彼らの気ままな共同生活が、4人目のルームメイトが大金の詰まったトランクを残して過剰摂取で死んでしまったことによってほころびはじめる。 まず、死体をバラして埋めるはめになった会計士のデビッドが、まっさきに精神のバランスをくずしサイコパスに変貌していく。残った2人は結託するわけでもなく、フラットというある種の密室のなかで金を巡る攻防戦を繰り広げていく。スコットランドの労働者階級の若者の青春を取り上げた『トレインスポッティング』とは印象は異なるが、「友情と裏切り」という同じモチーフがここでも展開されているのだ。 そんなブラックでシニカルな感性を、映画評論家の大森さわこは、タランティーノやシンガー、コーエン兄弟ら若手の才人たちに通ずるダークサイド志向と言い、評論家の滝本誠はスコットランド人特有の自虐的ユーモアだと、パンフレットにおいて評している。 タフでダークな笑いが最高潮に達するのがエンディングのシーンだ。包丁で刺されながらもひとり勝ち残ったように見えたユアン・マクレガーだが、別の見方をすると、実際には死んでいたのではないか?という疑念が沸く。真相は謎だが最後まで油断させない映画であることは確かだ。 『シャロウ・グレイブ』の本国での成功を経て、ダニー・ボイルは次作『トレインスポッティング』で世界的なヒットを飛ばした。日本では渋谷シネマライズで33週の驚異的なロングランを飛ばし、単館映画ブームやイギリス映画ブームのきっかけとなった。 ヘロイン中毒の若者と仲間たちとの悲惨な青春を描き、イギー・ポップやアンダーワールドらの楽曲やスタイリッシュな映像で気持ちをガツンとあげていくこの映画が、ドラッグがさほど日常化していない日本で受け入れられたのは、なぜだろうか。 96年から98年頃とは、日本国内の音楽CDのセールスがピークに達した時期。裏原宿が注目を集め、自分だけのマニアックな音楽やファッションを掘り当て、それを武器に都市をサバイブしていこうとする若者が増えた。それは日本に限ったことではない。そんな90年代の若者の感性の素地があったからこそだろう。 監督のダニー・ボイルはパンフレットのインタビューでこのように語っている。 「都市の感性と結ばれた笑いだと思う。環境がタフなだけによりダークなユーモアになる。笑いがタフでダークになれば拒否反応を起こす人々も出てくる。でも、こうした笑いがサバイバルの方法だし、個として在ることを保つ方法ともなる」 「サバイバル」はダニー・ボイル作品に一貫したテーマである。2008年のイギリス映画「スラムドッグ$ミリオネア」でも、インドのムンバイを舞台にスラム育ちの青年の逆境を乗り越えていく姿が描かれ、アカデミー賞の作品賞をはじめとする8冠を達成した。 そんなダニー・ボイルのサバイバルの原点をこの作品で確かめてほしい。 シャロウ・グレイブ 原題:Shallow Grave 製作国:イギリス 製作年:1990年 公開年月日:1996/11/09 製作会社:フィグメント・フィルム作品 監督:ダニー・ボイル EP:アラン・スコット 製作:アンドリュー・マクドナルド 脚本:ジョン・ホッジ 撮影:ブライアン・テュファノ 美術:ケイヴ・クイン 音楽:サイモン・ボスウェル 編集:マサヒロ・ヒラクボ 衣装(デザイン):ケイト・カリン 字幕:石田泰子 出演:ユアン・マクレガー、ケリー・フォックス、クリストファー・エクルストン、キース・アレン、ケン・スコット、ドリン・マクレディ、ジョン・ホッジ
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ブラジル映画祭 パンフレット
¥2,037
ブラジル映画の原点である60年代シネマ・ノーヴォから80年代中期作品のレジュメとして グーグルで「ブラジル映画祭」と検索すると、2005年より毎年秋に行なわれている同名のイベントがヒットするが、こちらはその19年前の1986年に配給会社ケイブルホーグによってブラジル映画の名作が特集上映されたときのパンフレット。流浪の絵本作家、スズキコージのカーニヴァル気分漂うイラストレーションを表紙にしたレアな逸品だ。 1960年代から1980年代半ばにかけてのブラジル作品を扱っており、プログラムの冒頭には、現在東京芸大の映像研究科の教授を務める出口丈人によるブラジル映画小史が書かれている。 出口の文章によると、ブラジルでは1913年という早い時期から映画が作られていたが、1950年頃までは上映される映画のほとんどがアメリカ映画であり、国内製作の映画は10本以内という苦しい時代が続いていたという。しかし1960年代に入ると、フランスのヌーヴェル・ヴァーグに呼応するようにグラウベル・ホーシャを筆頭にした“シネマ・ノーヴォ”と呼ばれる映画ムーブメントが起こる。 シネマ・ノーヴォの特徴とは、「低予算、ロケ、素人の出演者、作家主義という要素に、反米、反上流階級のイデオロギーを加えて、政治的色彩や荒々しいフォークロア的世界に彩られた力強い表現の作品」。ブラジル社会が抱える問題に対するダイレクトな表現が模索されたという。シネマ・ノーヴォはブラジル国内の政情や経済に左右されながら3度に渡って興隆と衰退をくり返し、1972年に終焉。その後はアルナウド・ジャボールやルイ・ゲーハに見られる娯楽性と作家性そそなえた商業映画が作られるようになり、1980年代に入ってアルゼンチン出身の監督でブラジル国籍を取得したエクトール・バベンコ監督『蜘蛛女のキス』(84年)が世界的ヒットとなったほか、カルロス・アウベルト・プラテス・コーヘイア監督『セルタンの夜』(84年)なども国際市場で評判となったという。1985年には検閲が緩和され、同年の統計で年間101本もの映画が製作されたそうだ。しかし、そのほとんどがポルノ・ムービーであることに出口は苦言を呈し、原稿を締めている。 ちなみに、85年以降のブラジル映画の名作には、多くの国際賞をとった ヴァルテル・サレス監督『セントラル・ステーション』(98年)やカルロス・ヂエギス監督『オルフェ』(99年)、ブラジルの貧民街“ファベーラ”の問題を描き世界から注目を集めたフェルナンド・メイレレス監督『シティ・オブ・ゴッド』(02年)がある。また、ブラジル製作ではないが、ヴァルテル・サレスは若き日のチェ・ゲバラを描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04年)を監督。映画プロデューサーとしてもブラジル映画の牽引役として活躍している。 この1986年の「ブラジル映画祭」のパンフレットには、今日国際的な評価を得るまでに成長したブラジル映画の、基盤となった以下の10作品が紹介されている。 ジャン・リュック・ゴダールが“もっとも新しい映画監督のひとり”と絶賛したシネマ・ノーヴォの鬼才、グラウベル・ホーシャの『アントニオ・ダス・モルテス』(69年)、『黒い神と白い悪魔』(64年)。シネマ・ノーヴォの継承者、アルナウド・ジャボール監督による『禁じられた裸婦』(73年/ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞)と『終わりよければ』(78年)。ラテンアメリカ文学の巨匠、ガルシア・マルケス原作の『エレンディラ』(83年)でも知られるルイ・ゲーハ監督の『転落』(76年)。世界的大ヒット作『蜘蛛女のキス』(84)のエクトール・バベンコ監督『傷だらけの生涯』(77年)。ほか、レジナルド・ファリア監督『バラ・ペサーダ』(77年)、レオン・ヒズマン監督『ブラック・タイ』(81年)、ゲハウド・モラエス監督『危険な旅』(83年)、カルロス・アウベルト・プラテス・コーヘイア監督『セルタンの夜』(84年)である。 本パンフレットをたよりに、ブラジルの大地が生み出した混沌としたカオスにぜひ浸っていただきたい。 アントニオ・ダス・モルテス 原題:Antonio Das Mortes 製作国:ブラジル 製作年:1969年 公開年月日:1970/10/24 製作会社:クロード・アントワーヌ・フィルム カラー/スタンダード 監督/脚本/美術:グラウベル・ホーシャ 撮影:アフォンソ・ベアート 音楽:マウオス・ノブレ 編集:エドゥアルド・エスコレル 出演:マウリシオ・ド・バーレ(Antonio das Mortes)オデッテ・ララ(Laura)オトン・バストス(Plofesseur)ウーゴ・カルバーナ(Police)ホフレ・ソアレス(Colonel)ローザ・マリア・ペンナ(Sainte) 受賞歴: 1969年度カンヌ映画祭監督賞、ルイス・ブニュエル賞受賞 黒い神と白い悪魔 英題:The Black God And The White Devil 原題:Deus e o diabo na terra do sol 製作国:ブラジル 製作年:1964年 公開年月日:1985/11/16 製作会社:コパカバーナ・フィルムス 配給:ケイブルホーグ モノクロ/スタンダード 監督/脚本:グラウベル・ホーシャ 製作:ルイース・アウグーストウ・メンデス、グラウベル・ホーシャ、ハーバス・バルボウサー 撮影:ヴァルデマール・リマ 美術:パウロ・ジル・ソアレス 音楽:ビラ・ロボス、J・S・バッハ 出演:ジェラルド・デル・レイ(マヌエロ)イオナー・マガリェイイーンス(ローサー)アントウニオウ・ピントウ(ムーライス)リーディオウ・シルヴァ(シバスティアン)マウリシオ・ド・バーレ(アントニオ)オートン・バーストゥース(コリスコウ)、他モンテ・サントの住人たち 受賞歴: 1964年度ポレッタ・テルメ自由映画祭最優秀作品賞 1966年度サンフランシスコ映画祭大賞受賞 禁じられた裸婦/ヌードは御法度 英題:All Nudity Shall Be Punished 原題:Toda Nudez Sera Castigada 製作国:ブラジル 製作年:1973年 製作会社:イパネマ・フィルムス 監督:アルナウド・ジャボール 脚本:アルナウド・ジャボール、ネルソン・ロドリゲス 音楽:アストール・ピアソラ、カール・オーフ 撮影:ラウロ・エスコレル 編集:ラファエル・ヴァルヴェルデ 出演:Paulo Porto / Darlene Gloria / Elza Gomes / Paulo Cesar Pereio / Isabel Ribeiro / Henriqueta Brieba / Se'rgio Mamberti / Orazir Pereira / Abel Pera / Waldir Onofre / Teresa Mitota / Paulo Sacks / Hugo Carvana 終わりよければ 英題:Everything's Alright 原題:Tudo Bem 製作国:ブラジル 製作年:1978年 製作会社:アルナウド・ジャボール・プロダクション、エンブラフィルム 監督:アルナウド・ジャボール 脚本:アルナウド・ジャボール、レオポルド・セラン 撮影:ディブ・ルトゥフィ 編集:ジルベルト・サンテイロ 出演:Fernanda Montenegro / Paulo Gracindo / Maria Silvia / Zeze Motta / Stenio Garcia / Jose Dumont / Anselmo Vasconcelos / Regina Case / Luiz Fernando Guimara~es / Fernando Torres / Luiz Linhares / Jorge Loredo / Paulo Cesar Pereio 転落 原題:A Queda 製作国:ブラジル 製作年:1976年 製作会社:ネルソン・ザビエル・プロダクション 監督/脚本:ルイ・ゲーハ、ネルソン・ザビエール 音楽:ルイ・ゲーハ、ミルトン・ナシメント 撮影:エドガー・モウラ 編集:ルイ・ゲーハ 出演:Carlos Alberto Baia / Leonidas Bayer / Hugo Carvana / Murilo de Lima / Jurandir de Oliveira / Ginaldo de Souza / Ivan De Souza / Luiz Antonio de Souza / Cosme dos Santos / Lima Duarte 傷だらけの生涯 原題:Lucio Flavio, o Passageiro da Agonia 製作国:プラジル 製作年:1977年 製作会社:エンブラフィルム 監督:エクトール・バベンコ 脚本:エクトール・バベンコ、ホルヘ・デュラン、ホセ・ルーゼイロ 音楽:ジョン・ネッシュリング 撮影:ラウロ・エスコレル 編集:シルヴィオ・ヘノルディ 出演:Reginaldo Faria / Ana Maria Magalhaes / Milton Goncalves / Paulo Cesar Pereio / Ivan Candido / Lady Francisco / Grande Otelo / Stepan Nercessian / Erico Vidal バラ・ペサーダ 英題:Heavy Trouble 原題:Barra Pesada 製作国:ブラジル 製作年:1977年 監督/脚本:レジナルド・ファリア 原作:Plinio Marcos「Nas Quebras da Vida」 音楽:エドゥ・ロボ 撮影:フェルナンド・デュアルテ、ホセ・メデイロス 編集:ワルデマール・ノヤ 出演:Stepan Nercessian / Cosme dos Santos / Katia DAngelo / Milton Moraes / Itala Nandi / Elza Gomes / Ivan Candido / Rui Resende / Haroldo de Oliveira / Lutero Luiz / Milton Vilar / Mario Petraglia ブラック・タイ 英題:They Don't Wear Black Tie 原題:Eles Nao Usam Black-Tie 製作国:ブラジル 製作年:1981年 製作会社:エンブラフィルム 監督:レオン・ヒズマン 脚本:レオン・ヒズマン、ジャンニフランチェスコ・グァリエリ 音楽:アドニラン・バルボサ、チコ・ブゥアルケ、ジャンニフランチェスコ・グァリエリ 撮影:ラウロ・エスコレル 編集:エドゥアルド・エスコレル 衣装デザイン:ユリカ・ヤマザキ 出演:Gianfrancesco Guarnieri / Fernanda Montenegro / Carlos Alberto Riccelli / Bete Mendes / Lelia Abramo / Milton Goncalves / Rafael de Carvalho 危険な旅 原題:A Dificil Viagem 製作国:ブラジル 製作年:1983年 製作会社:A&Bプロダクション サイズ/カラー:35ミリ/カラー 上映時間:85分 監督/脚本:ゲハウド・モラエス 撮影:ヴァルター・カルバーホ 編集:ヴァルター・グーラート 出演:Joselita Alvarenga / Joao Antonio / Roberto Bonfim / Jose de Arimatheia / Beatriz de Castro / Francisco Di Franco / Paulo Jose / Simon Khoury / Mallu Moraes / Ary Pararraios セルタンの夜 原題:Noites do Sertao 製作国:ブラジル 製作年:1984年 製作会社:シネフィルムス 監督/脚本:カルロス・アウベルト・プラテス・コーヘイア 原作:Joao Guimaraes Rosa「Buriti」 音楽:タヴィーニョ・モウラ 撮影:ホセ・タデュー・ヒベイロ 出演:Cristina Ache / Maria Alves / Sura Berditchevsky / Debora Bloch / Alvaro Freire / Antonio Grassi / Carlos Kroeber / Hileana Menezes / Milton Nascimento / Paulao / Ruy Polanah / Tony Ramos
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ブコウスキー オールド・パンク パンフレット
¥550
多方面から読み解くブコウスキー・ワールド。 入門書としておすすめ このパンフレットは執筆陣がツボを押さえた人選となっていて、とても読み応えがある。イントロダクションは映画の字幕も担当した翻訳家の江口研一が担当。江口研一といえば、ジェネレーションX世代の騎手である小説家ダグラス・クープランドの翻訳でも知られ、欧米のリアルストリートカルチャーに根ざした原著の翻訳では若手ダントツの実力派だ。次ページにはブコウスキー作品の翻訳家で、『U2詩集』や『ボブ・ディラン詩集』の翻訳でもおなじみのミュージシャン、中川五郎によるブコウスキー評。そしてベテラン映画評論家、川口敦子の映画評へと続く。さらに著作リストや監督インタビュー、映画に登場するすべての証言者のプロフィールや文学的見地からのブコウスキー評もあり、映画のことだけでなく、多方面から、この作家を知ることができて、資料的価値も高い内容。さらりと読めて、ブコウスキーワールドの入門書にもぴったり。 デザインは、コカコーラのキャンペーン「the coke side of life」のクリエイティブを手がけたUltRA Graphicsが担当。スモーキーでざらっとした深みのあるデザインに仕上げられている。 text by 草刈朋子
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ダリオ・アルジェント映画祭 パンフレット
¥1,100
イタリアンホラーの巨匠ダリオ・アルジェントの入門書として 12本の作品紹介に加えて、吉本ばなならの思い入れたっぷりなコメントも読める。 1999年10月のダリオ・アルジェント映画祭『ダリオ・アルジェント/鮮血の美学』では、次の作品群が上映された。『歓びの毒牙』『わたしは目撃者』『サスペリア』『サスペリアPART2完全版』『シャドー』『フェノミナ』『トラウマ 鮮血の叫び』『スタンダール シンドローム』『ゾンビ[ダリオ・アルジェント監修版]』『デモンズ』『デモンズ2』『肉の蝋人形』の計12本だ。 パンフレットにはこれらの作品紹介に加え、吉本ばななや映画監督の黒沢清、漫画家の古屋兎丸、しりあがり寿といったそうそうたる顔ぶれからオマージュが寄せられている。 たとえば、「学生時代にダリオ・アルジェントの映画を見て心が救われた」と、独白にも似たコメントを寄せる吉本ばなな。かたや古屋兎丸は『フェノミナ』主演のジェニファー・コネリーについて甘酸っぱい憧れの入り交じったイラストコメントを描き起こしている。二人とも多感な青春時代にダリオ・アルジェント作品との出会いがあったわけだが、全く違うベクトルで見ていることがわかって面白い。 必要最低限の情報が収録され、刷り色も茶の単色と、いたってシンプルなつくりのパンフレットだが、巻頭には鮮やかなカラーの場面写真が挿入されていて、モノトーンと原色の対比が際立っている。ダリオ・アルジェントのコレクターアイテムとしてもおすすめだ。 text by 草刈朋子
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パッション パンフレット
¥880
ゴダール通も納得の人選で映画『パッション』を読み解こう みんなヌーヴェル・ヴァーグを通過してきた。 シネフィル好みの無修正版パンフレット! 『パッション』は、ジャン=リュック・ゴダールの商業映画復活2作目。「商業映画」とは言っても、一筋縄ではいかないゴダールのこと。DVDを見たあとには、頭の整理をするために副読本が欲しくなる。そんなときのために、公開時の映画パンフレットをどうぞ。 解説陣は、ゴダールもニンマリしそうな正統派のシブい人選だ。 まず、最初に筆をふるうのは映画監督の諏訪敦彦。諏訪は映画『M/OTHER』で1999年のカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞し、2006年にはフランスのオムニバス映画『パリ、ジュテーム』に参加するほどヨーロッパやフランス国内から圧倒的な評価を得ている監督だ。一方、美術方面からは、「新日曜美術館」など多くの美術番組を担当するNHKの名物プロデューサー、丸山俊一が寄稿。音楽面では、現代音楽家であり映画音楽を多数手がける鈴木治行の緻密な考察があり、トリはこのパンフレットを編集した筒井武文の文章で締めくくられている。 ちなみに、筒井武文は、東京藝大の映像研究科の助教授で、実は諏訪敦彦の大学時代の映画仲間。あるWEBサイトに諏訪のインタビューが掲載されていて、筒井武文の仏映画狂ぶりについて話している記事が面白かったので、引用する。 「今、芸大や映画美学校で教えている筒井武文さんは、僕の東京造形大学の同級生で、毎週大学に日仏からフィルムを持ってきて、自主的な上映会を開いていた。これは重要な映画だといって、字幕もないのに、学生だけで見ていた。(中略)このプリントはもうフランスに帰っちゃうからといって、筒井さんは持ってくるんですよ」 (ホームシアターファイル「日仏監督インタビュー/ 日本編」より) (http://www.phileweb.com/news/d-av/200801/03/20056.html) ああ、ここにもパッションが……。ヌーヴェル・ヴァーグを通過してきた男たちの秘めたる熱い思いを映画の副読本として読むべし。
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ポリス インサイド・アウト パンフレット
¥700
SOLD OUT
世の中にロックバンドのドキュメンタリーは数多くあれど、メンバー自身が撮影し、監督を務めた作品はあまりないかもしれない。 映画『インサイド・アウト』は、イギリスのロックバンド、ポリスのドラマーであるスチュアート・コープランドが撮りためていた8ミリフィルムの映像を、彼自らが編集したドキュメンタリー作品だ。 バンドが軌道にのりはじめた1978年から、バンド解散前の1983年まで、スチュアートは、スティングから「カメラ男」と揶揄されるほど、ツアーの移動中やドサ回りのサイン会、レコーディング風景、PV撮影の現場、そしてステージの上などありとあらゆる場面で、愛用の8ミリカメラ「スーパー8」を回し、記録している。 その映像は、ブロンドのショートヘアをトレードマークにイギリスを飛び出し、アメリカという舞台を経て短期間でスターダムにのしあがったポリスの成功ヒストリーそのものだが、ロックが本格的にショービジネス化していく様子を見ているようでもある。 スチュアートはパンフレットのなかでこのように語る。 「このあまりにも普通じゃない展開は、むしろレンズを通してみていた方が、現実感が持てるほどだった」 パンフレットには、これまであまり知られてこなかったスチュアートの映画音楽家としてのバイオグラフィーが掲載されている。実は、すでに1983年にはフランシス・F・コッポラ監督の『ランブル・フィッシュ』の音楽でゴールデン・グローブ賞の最優秀楽曲賞をするなど、スチュアートはサウンドメーカーとしての才能を発揮しているのだ。 スチュアートは本作をアップルコンピューターのファイナルカットプロを駆使して編集。映画業界との近しさもあり、2006年のサンダンス映画祭に出展したことをきっかけに、一般に公開された。 パンフレットには音楽評論家の大滝俊一と映画評論家の北大路隆史らが寄稿。デザインは、雑誌や書籍、CDも多く手がけるatmosphereの川村哲司。ボール紙のような表紙にくるまれ、黄色と黒を印象的に使っている。黄色は彼らの髪の毛の色、ブロンドからきているに違いない。本パンフレットは、ブロンドライフを送っていた頃の彼らのアッパーな日々を読むには最適の入門書である。
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Topo Gigio パンフレット
¥1,019
市川崑をはじめ、ビッグネームたちの貴重な声を集めた完成度100%のパンフレット “トッポ・ジージョ”と聞いて、「おお、懐かしい!」と思う世代は多いのではないか。 大きな耳にとぼけた顔、青と白のボーダーシャツを着たネズミのトッポ・ジージョはイタリアのミラノ生まれ。マリア・ペレゴという子供たちの人形劇団を作った人形師が生みの親だ。ヨーロッパはもちろん、アメリカではローリング・ストーンズやビートルズが出演した「エド・サリバン・ショー」になんと92回も出演している世界的に有名なキャラクターだ。 日本では1966年に初めてTV放映され、『チャオ! トッポ・ジージョ』というタイトルで一躍人気者に。78年には「ママとあそぼう! ピンポンパン」で(当時の声と歌は団しん也が担当している)、88年に『夢見るトッポ・ジージョ』としてアニメ化され、30代以上に人にはTV番組やCMで馴染みのあるキャラクターだ。なかでも最も人気があったのが60年代であり、「トッポ・ジージョのボタン戦争」はそういった反響を受けて作られている。 監督と脚本を務めたのは日本映画界の重鎮、市川崑。『ビルマの竪琴』、『東京オリンピック』、『犬神家の一族』など、独特の鋭いカット割りと画面分割は「コン・タッチ」と呼ばれよく知られている名匠だ。豪華な俳優人と壮大なスケールで描く大作を得意とする監督だと思う人がほとんどだろう。だが、意外なことに彼はもともとアニメーター出身なのだ。 少年時代に画家を目指したが、ディズニーのアニメ映画を見て感動し、18歳で京都の映画会社に入る。動画の下絵描きなどの後に撮影部に移り、48年に野上弥生子原作「花ひらく」で監督デビュー。この辺りの経歴は、ドキュメンタリー『市川崑物語』(監督:岩井俊二)に詳しく、これまであまり語られることのなかったアニメーター時代などが、貴重な写真や映像とともに語られている。過去のエピソードやフィルムはもちろん、「ミッキーマウスの時計」を大切にし、「ミッキーマウスのスリッパ」をはいている貴重な晩年の姿を見ることができる。78年には実写とアニメを融合させた『火の鳥』の監督もしており、彼が純粋なアニメファンだったことが伺える。こう考えると、彼が生み出した「コン・タッチ」はアニメーションの手法からきていることがわかる。 04年のリバイバル上映時に製作されたこのパンフレットは、トッポ・ジージョにまつわるデータはもちろん、60年代という時代が持つ匂い、市川崑周辺に集まる才能あふれるスタッフたちの貴重な証言やエッセイをコンパイルした完成度の高いパンフレットだ。読み応えのある内容はまさしく“トッポジージョ・パーフェクト・ブック”といえる出来栄えになっている。 興味深いパンフレットのコンテンツを紹介しよう。 冒頭の市川崑のメッセージにはじまり、トッポ・ジージョの声を担当した中村メイコ、ナレーションの小林桂樹、声優の大平透、『アンパンマン』の作者やなせたかし、イラストレーターの和田誠にライターの小柳帝、最後に市川崑のトッポ・ジージョ・インタビューまで(このインタビューがかなり面白い)。さらに脚本・ギャグマン・主題歌の歌詞を手がけた永六輔、製作スタッフの青山ヨシオと富澤幸男による撮影裏話座談会までも掲載され、本当に盛りだくさん。 もともとトッポ・ジージョのファンであったという市川監督は、この作品についてこう語っている。「トッポ・ジージョの映画を製作することになったとき、私は私なりに子どものための映画をつくってみようと思いついた。子どものための単なる説法やお伽噺をつくろうというのではない。あくまで現在の物語を《こころ》というものを主題にして、子どもだけでなく、大人にも、世界中の人にも楽しく鑑賞してもらえるフィルム・・・・豊かな夢と勇気を・・・・そして新鮮な映画独自の面白さに満ちたフィルムを、という欲深いものである。それにはジージョは格好の主人公である」。 トッポ・ジージョ関連の書籍や文献はそれほど多くない。このパンフレットがトッポ・ジージョの貴重な資料になることは間違いない。今のうちのぜひ手に入れておこう。 text by 小池_弘 トッポ・ジージョのボタン戦争 製作国:日本 製作年:1967年 製作会社:マリア・ペレーゴ・プロ=キングスメン・エンタープライズ 配給:東和 カラー/シネスコ/92分 カラー/35mm/シネマ・スコープ(1:2.35) 監督:市川崑 製作:青山ヨシオ、フェデリコ・カルドーラ、市川崑 脚本:市川崑、永六輔、アルベルト・オンガロ、フェデリコ・カルドーラ 撮影:長野重一 美術:マリオ・ミラニ 照明:久米光男 音楽:中村八大 録音:大橋鉄矢 編集:堀内一郎 スチル:東宝アート・ビューロー 操演:マリア・ペレーゴ 出演(声): 中村メイコ、冬城五郎、根上忠、園八雲、布施紘一、須永恒、大平透